あなたのことを絶えず考えているのに


夏風邪を引いた。

初めて体調不良で会社を休んだ。
ただでさえ仕事できないのに、体調管理もできないなんて、と思われてる気がして、一人暮らしの部屋は淋しすぎて、テレビはつまらなくて、泣きたいのに泣けなくて、恋人と喧嘩した。


会って喧嘩したんじゃなくて、LINEの文面だけで。
私を労わっているようで自分のことしか考えていない相手に対して、悲しいと伝えた。もしかしたら私も自分のことしか考えていないのかもしれないけど、熱でぼうっとする頭で、それ以上何も考えられなかった。


なんかもう疲れてしまって、しばらく会わないでおこうと言った。元々好きな人から距離を置くことで性的興奮を得るという謎の性癖がある私でも、恋人としばらく会わないのはそれなりにキツいので、向こうはもっとキツいだろうと思った。
どちらにせよ来週の土日で5ヶ月の記念日だがちょうどその日が親愛なるおじいちゃんの一年忌法要の日なのであった。おじいちゃんごめんね。おじいちゃん亡くなってすぐに彼氏をつくってごめん。

恋人は私に対して愛してるとも大事にするとも言った。でもそれは嘘だったのかなと思った。愛するって自分の欲よりも相手の幸福を想って行動することじゃないのか?一人暮らし始めてから初めて寝込んでひたすら心細い時に、看病しに行くでもなく家事手伝うでもなく何か買って行こうでもなく、会えない?なのは、自分の欲のことしか考えてないんじゃないかと思った。それともそれは私の認知の歪みなのか、エゴなのか、考えすぎてわからなくなった。

私に嫌われることを極端に恐れていて、私のしんどさは置き去りにして、自分が私にどう思われてるかだけを考えて何も行動せずに怯えているのは、愛じゃないと思うし、大事にもしてないと思う。それとも、今まであまり愛情表現をしてこなかった私が悪かったのか。

私があなたに言って欲しい言葉は、
話し合う時は電話でもLINEでもどっちでもいいよ、合わせる、じゃなくて、
そうなんだ、熱長引いてるね、大丈夫?心細くない?ご飯食べれてる?何か買って行こうか?
なんだけどな。


付き合ってから2ヶ月くらい手を繋いだこともなくて、まあそれは私がなぜか手を繋ぐのも嫌だなあと思っていたからなんだけど、
でもちゃんとある日を境にキスもハグもできるようになって、
そしたら今まで数時間の外デートだけでも嬉しそうにしてくれたのに、私が生理になっても構わず、家に行ってもいい?って言われた時は、キスとかそれ以上のことしたいだけで、私のこと何も考えていないんだなって思って悲しくなったし、生理痛で苦しんでる時に家に呼んだのも悪かったけど、舐めてって言われたのも、自分の欲のことしか考えてないんだなって思って、なんか、

彼氏は童貞だし、私たちはまだセックスをしていないし、焦る気持ちもわからないでもないけど、ムカつくから一生入れさせてやらないと思った。でも童貞だからと言って私の気持ちを等閑にしていい免罪符にはならない。


体がだるい。淋しい。泣きたい。もういいや。熱も下がらないし、こういう時に頼るのが恋人だと思ってたんだけどな。一人でTwitter見てただけの休日だったよ。

仕事も全然できなくてミスばっかりで、死にたくて、泣きたくて、誰からの信頼もなくて、
かねてから希望してた役職に異動できることになって嬉しいのに、逃げみたいに捉えられてそうだと思って怖いな。何もかもうまくいかないときってあるけど、今それだ。しんどいな。恋人と長くうまくいってる友達と比較して、仕事のできる同僚と比較して、落ち込んで、あ、私ってひとりぼっちじゃんって思って

玄関のチャイムが鳴って、実家から私の好きなお菓子が送られてきて、
親友が、同期と比べちゃだめだよって言ってくれて、
恋人が、私のことを大事にしたいって気持ちは本当だよって、
それは信じたいと思う



誰かを大事にするって難しいな。付き合うってどういうことなのかな。行動を束縛して、我慢させるだけなら要らないや。一人じゃ淋しくてどうしようもない時に何も言わずに寄り添ってくれる絶対的な相手だと思ってたよ。


明日は、そんなに好きでもないバンドのライブだし、頑張って体調治して行ってくる。
もういいや。ずっと会えないことに不安になってるって言われても、私にはしっくりこない。ていうかどんな言葉もしっくりこない。言葉にならない感情をどれだけ見つけたのかな、あなたも私も。

好き、私も好き、じゃあ一緒にいよう、って、単純にいかないのはなんでかな。細い糸が複雑に絡み合っていて、もうどこから絡んでたのか、ほどくことはできるのか、切るしかないのか、私にはもうよくわからない。

明日ライブに行くバンドの曲を今日ほとんど初めて聴いてるけど、とてもいいな。やっぱり音楽は無条件に感情を救うな。

恋人のひたすら優しいところが大好きだったけど、その優しさが仮初だったとしたらどうしよう。それはないと信じたいけど、私の存在価値が揺らいでいくのを感じるのがなんともつらいな。

対人関係においてとても諦めの早い私でもなかなか諦めきれないのは、離れたくないからじゃなくて、世間体の問題かもしれない。めんどくさいから、もう諦めたいんだけどな。




















あなたのことを絶えず考えているのに
あなたの顔がどうしても思い出せない
気がついてみるとふと耳にした音楽の一節を
くり返しくり返し口ずさんでいるのだ
あなたに会いたいと思うのだが
それは情熱というよりむしろ好奇心で
自分がいったいどうなっているのか
もういちどあなたの前で確かめたいのだ
それから先のことは思い浮かばない
あなたを抱くことも想像できない
ただあなた以外の世界がひどくけだるく
僕は高速度撮影の映画の中の俳優のように
ゆっくり煙草に火をつけるのだ
するとあなたなしで生きていることが
ひとつの快楽のようにも思えてくる
あなたはもしかするといつか僕が他国で見た
時をへた美しい彫像のひとつかもしれない
そのかたわらで噴水は高く陽に輝いていた

恋の始まり/谷川俊太郎